コンプレッサーケースを使った1960年代の潜水時計を4万円台の日本製機械式で再現!

 POWER WatchとLow BEATの総編集長を務める筆者がプロデュースするオリジナルの時計ブランド「アウトライン」で、2019年1月にリリースした“コンプレダイバー1960”のモチーフとなった1960年代のダイバーズウオッチについて書きたいと思う。

 そもそも本格的なダイバーズウオッチが登場するのは1950年代になってからだ。いまでこそ100mもの高い防水能力を備えた防水時計は、数万円のものから販売されているが、当時は現代のような優れた工作機械などはなかったため、すべて手作業で作っていた。そのため50m防水といえども簡単なものではなかったのだ。

 つまり、当時は高度な技術をもつ時計メーカーでしか作れなかったのである。そんななかで生まれた最も代表的なダイバーズウオッチが、皆さんもご存じのロレックスのサブマリーナだ。潜水時間を計測するための回転ベゼルを装備したスタイルは、今日のダイバーズウオッチにも受け継がれ、もはや代名詞と言える存在である。

写真はEPSA社製のスーパーコンプレッサーケースの裏ブタの内側。ヘルメットを被ったダイバーをモチーフにしたEPSA社のマークが刻印されている。時計によっては刻印がないものもあったようだが、ほとんどのものに採用された

 同時期にオメガとブランパンからも、それぞれシーマスター300とフィフティファゾムスという回転ベゼルを装備した同様のダイバーズウオッチが発表されているものの、当時独自に開発できたのは、これらほんの一部のメーカーだけだった。つまり、当時はそれだけダイバーズウオッチの開発が難しかったということだ。それが1950年代後半になるとダイバーズウオッチが各社から続々と登場するようになる。その背景にあったのがコンプレッサーケース(写真)の存在だった。

 ケースメーカーのEPSA社が1955年に特許を取得したこのコンプレッサーケースは、ケースにかかる水圧を利用して、水深が増すごとに密閉度を高めるというものだ。EPSA社はこれをスイスの各時計メーカーに供給。それによって多くのメーカーでもダイバーズウオッチの製造が可能になったというわけである。

コンプレッサーケースを使って1960年代にスイスの時計メーカーから販売された当時のダイバーズウオッチ。ブランド名は右から、ハミルトン、ウイットナー、エニカである。ほかにジャガー・ルクルトやロンジンからも販売されている

 そして、様々なデザインのダイバーズウオッチが各社から登場したことはもちろん、なかにはこれをベースにさらなる高い防水能力を目指して、独自に開発するメーカーが出てくるなど、ダイバーズウオッチの開発が一気に加速したのだった。つまりこのケースの存在そのものが、ダイバーズウオッチの発展に大きく寄与したと言っても過言ではない。

 筆者が作った“コンプレダイバー1960”は、そんなダイバーズウオッチの開発と発展になくてはならなかった、当時のコンプレッサーケースを使ったダイバーズウオッチの雰囲気を再現したものである。

 当時のコンプレッサーケースを採用したダイバーズウオッチにはある共通点があった。それは、サブマリーナのように経過時間を確認するための回転式スケールがベゼルではなく風防ガラスの内側に設けられているという点だ。

コンプレダイバー1960。文字盤カラーは、ブラック(Ref.YK18001-1)とネイビー(Ref.YK18001-2)の2種類。SS(40mm径/替えベルトも付属)。10気圧防水。自動巻き(日本製Cal.MIYOTA9015)。価格は4万9500円

 その操作を2時位置のボタンで行うため、時刻調整を行うボタン(リューズと言う)と合わせてケース右側に二つのボタンが装備されている。これがコンプレッサーケースを採用したダイバーズウオッチの大きな特徴なのである。

 今回はこの点も含めて細かなディテールなど、当時の雰囲気を大切にしながら再現している。

文◎菊地 吉正(編集部)

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菊地 吉正 – KIKUCHI Yoshimasa

時計専門誌「パワーウオッチ」を筆頭に「ロービート」、「タイムギア」などの時計雑誌を次々に生み出す。現在、発行人兼総編集長として刊行数は年間20冊以上にのぼる。また、近年では、業界初の時計専門のクラウドファンディングサイト「WATCH Makers」を開設。さらには、アンティークウオッチのテイストを再現した自身の時計ブランド「OUTLINE(アウトライン)」のクリエイティブディレクターとしてオリジナル時計の企画・監修も手がける。